相続法の改正について
民法の相続分野の規定を約40年ぶりに見直す改正民法等関連法が2018年7月6日の参院本会議で可決、成立しました。今改正の主な趣旨としては高齢化の傾向にある残存配偶者の保護と言われています。手続きを簡略化する規定や親族間の不公平感を是正しうる現実的な改正が盛り込まれており、相続トラブルの防止や遺言の実効性の担保・促進を図ることも念頭に置かれていると思われます。主要な改正点は以下の通りです。
①「配偶者居住権」を新設。
所有権とは別に認められた配偶者固有の権利です。残された配偶者が、遺産分割後も、亡くなるまで自宅に住み続けられる権利のことで、仮に、所有権が第三者に移っても、住む権利が保障されます。この居住権は売買ができないため、自宅の評価額が低くなるのが特徴です。その分、配偶者は預貯金などを多く相続できる利点があります。他人に譲渡することはできません。高齢化に対応し、配偶者が住まいや生活資金を確保しやすくしようとする趣旨です。この権利は登記できる権利として規定されています。今後は相続登記と併せて申請が必要となる権利となると考えられます。
②遺産分割制度の見直し。
主な改正点は次の二つ
(1)結婚20年以上の夫婦の場合、配偶者が生前贈与・遺贈された自宅は遺産分割の計算外とすることが可能となりました。これまでは住宅を配偶者に贈与・遺贈しても、遺言などで遺産に含まないことを明示しないと「遺産の先渡しをした」として取り扱われたため、実質的な意味はありませんでした。しかし改正民法により、明示がなくても遺産分割の対象から除けるようになり、配偶者の遺産の取り分の増加がすることになります。これにより、残された配偶者が、住まいと生活費の双方を確保しやすくする狙いがあるようです。
(2)遺産分割中であっても、当面の生活資金や葬儀費用を故人の預貯金口座から引き出しやすくする「仮払い制度」も設けられました。
③相続人以外の貢献を考慮
相続人以外の親族(長男の妻など)が介護や家業の手伝いをした場合、相続人に金銭を請求できることとしました。従前の寄与分の制度(現行民法904の2)は相続人にのみ認められた制度・権利であったことを考えると、親族間の不公平感を是正しうる、現状を反映した現実的な改正だと言えます。ちなみに、この請求が認められるのは2親等以内の親族とされています。
④遺言制度の見直し
自筆証書遺言(現行民法968)については、従来は遺言すべてを自筆する必要がありましたが、今改正により、財産目録をパソコンで作成して添付することも認められました。財産目録以外は従来通りの形式で作成することは変わりません。
また、自筆証書遺言を、法務局で預かる制度も新設されます。法務局が署名や押印などの最低限の形式を確認するため、書式の不備で遺言が無効になる事態を一定程度防げるようになる見通しです。遺言書の保管制度の実効性を確保するため、被相続人の死亡届が提出されると、相続人に通知される制度も盛り込まれています。
※施行期日については、2020年4月1日とされています。ただ部分的に2019年から施行される規定もあるようですので、今後の動向に注意が必要です。
(執筆担当:荒谷直樹)