海外在住の日本人の相続手続について
相続手続を進めるためには、一部の例外を除いて、遺産分割協議書を作成する必要があります。そして、遺産分割協議書には、相続人全員の実印による押印に加え、印鑑証明書を添付しなければなりません。これは、遺産分割協議書に押された印鑑が実印であることを証明するためです。
そして、実印を押していることをもって、その人は協議の内容に合意していると判断されるのです。
このような「実印+印鑑証明書」によって意思を証明する方法は、日本のほか、韓国や台湾でしか採用されていないそうです。アメリカやイギリスなど、世界のほとんどの国では、役所に行っても印鑑証明書を発行してもらうことができません。
では、相続人の中に海外在住の日本人がいる場合には、その人が遺産分割協議書の内容に合意していることを、どのように証明するのでしょうか。
その人が一時的に海外に住んでいるだけで、住民票(住民登録)が日本に残っている場合には、話は簡単です。日本に帰国した際に、印鑑証明書を取得してもらえばよいのです。もしくは、日本にいる親族が代行取得することを検討する余地もあるでしょう。
一方、住民登録を抹消している場合には、署名証明書を取得してもらうことになります。署名証明書について、以下、外務省HPより抜粋してみましょう。
日本に住民登録をしていない海外に在留している方に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続のために発給されるもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。
証明の方法は2種類です。形式1は在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印を行うもの、形式2は申請者の署名を単独で証明するものです。どちらの証明方法にするかは提出先の意向によりますので、あらかじめ提出先に御確認ください。
(出典:外務省HP(https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000554.html))
このような署名証明書は、各国に設置されている在外公館(日本国大使館や日本国総領事館)で発行してもらうことができます。
ただし、申請する方本人が、その公館へ出向いて申請しなければなりません。代理申請や郵便申請はできないので、ご注意ください。
不動産の名義変更においては、通常、上記のうち形式1の証明書が求められます。そうすると、署名証明書を取得する前に、遺産分割協議書の内容を確定させておかなければなりません。
なぜなら、上記のとおり、形式1の証明書を取得するためには、事前に私文書(ここでは遺産分割協議書)を作成しておく必要があるからです。そして、証明書取得後に、もし遺産分割協議書の内容に変更や修正があれば、再度在外公館に出向いて証明書を取得することになります。
つまり、あらかじめ完璧な状態に仕上げた遺産分割協議書を用意しておかないと、何度も在外公館に行くことになりかねないということです。
そのような事態を防ぐためには、相続人や相続財産の調査、遺産分割内容の調整などを、ミスのないよう着実に進めておかなければなりません。
なお、海外在住の方が不動産を取得する場合には、登記申請の際に「国内における連絡先となる者の氏名・住所等」を提供する必要があります。また、外国人が不動産を取得する場合には、登記申請の際に「所有者のローマ字氏名(氏名の表音をアルファベット表記したもの)」を提供する必要があります。いずれも直近の法改正により、令和6年4月1日から開始した制度です。この点は、また別の記事で詳しく解説させていただく予定です。
パートナーズ司法書士法人では、海外在住の相続人がいる場合の相続手続についても、しっかりとお客様をサポートさせていただきます。初回相談は無料でお受けしていますので、お悩みの際にはお気軽にお問い合わせください。